日本に上質なインナーウェアを根づかせたい。AROMATIQUEが歩んできたこれまで

高品質な素材を用い、メイドインジャパンのインナーウェアにこだわるAROMATIQUE。2014年春夏シーズンのデビュー以来、日本のブランドにはなかったエレガントなデザインを提案し、さらにアウターウェアとのコーディネートもできるインナーウェアブランドという独自の位置を目指しています。来年迎える10周年を前に、順風満帆とは決して言えないAROMATIQUEが歩んできた軌跡をディレクターのMaiが振り返ります。

■ヨーロッパのようにインナーウェアを大切にする文化を広めたい

AROMATIQUE誕生までの軌跡を辿るには、運営会社であるTAKAGIの積み重ねてきた歴史や思いを紐解く必要があります。創業93年を数えるTAKAGIは、日本におけるサニタリーショーツのパイオニアとして、下着メーカーや大手スーパーマーケットに卸す女性用インナーウェアを製造してきました。生地開発も得意でコットン100%が当たり前で今ように様々な生地がなかった時代から、はき心地を追求した生地を手掛け、ショーツに使われるストレッチの効いた生地はTAKAGIが最初に開発したと言われているほど。


<生地開発、ニッター、縫製士など多くのスタッフが関わってAROMATIQUEの製品は完成します。>

転機は2000年頃に訪れます。
「1970~90年代にかけてスーパーマーケットの拡大とともにTAKAGIも一緒に成長していましたが、2000年前後にバブルが弾けた影響が大きくなり始め、スーパーマーケットの成長が落ち着き出しました。そしてメーカーの多くが安いものづくりを始めました」

TAKAGIの理念は“いいものを作り、大事に長く着てほしい”。その背景にはインナーウェアを消耗品ではなく、高価でも着心地のいいものを大切に着たいという、ものづくりを大事にするヨーロッパの考えがあります。

「安さを追求する大量生産ではメーカーとしての面白みもないし、TKAGIが大手を真似ても差別化もできない。ヨーロッパの高級インナーウェアブランドは、上質な生地を使っていますよね。高品質なものづくりは当時の流れとは逆行していましたが、TAKAGIもそういう生地を作りたい。まずは高品質な生地を開発することになりました」


<AROMATIQUEで使われる生地。モノクロ写真でも光沢感が伝わってくる。>

そこから高品質な生地開発に取り組む日々が始まりました。当初はインナーウェアを大切に着るマインドをユーザーに広げたいとの思いが最優先。生地を開発したら、下着メーカーに採用してもらえるよう、アプローチしていました。

「でも当時の日本社会ではまだ高級な素材は売れない、採算が合わないと受け入れてもらえず、何年も膠着した状況が続きました。先代社長の中には生地開発だけでなく、もっと攻めたものづくりがしたいとの思いもあり、だったら自社でブランドを立ち上げるのが一番いいとの結論になったのが2003年頃。そこからまた、もがく10年が始まるんですけどね(笑)」

■AROMATIQUE製品に欠かせないフィロスコッチア綿糸との出合い

自社ブランドの立ち上げに向けて、まず始めたことはヨーロッパでマーケットや素材のリサーチ。その中で見つけたのが、世界最高品質と称され、AROMATIQUEのコットンフライスシリーズとコットンアコーディオンシリーズには欠かせないブランド綿糸のフィロスコッチアでした。


<綿糸でありながら美しい光沢を持つフィロスコッチア>

「スイスのインナーウェアのブランドが使っていて、どうしてコットンなのにシルクみたいな光沢があるんだろう、ってところから綿糸メーカー探しを始めて。当時はウェブサイトを持っていない企業も多かったので、人づてに紹介してもらったり、実際にヨーロッパまで確認しに行ったり。フィロスコッチアのメーカーを探し出すのに2005年から4年ほど費やしました」


<マーケティングやフィロスコッチアのメーカーを探しに、何度もヨーロッパへ足を運びました>

ようやくフィロスコッチアが輸入できることに。そこでレースを組み合わせたヨーロッパの高級インナーウェアブランドのように、と自社ブランドのイメージも固まっていきます。

糸が手に入ったら、次はその糸を使って生地にする必要があります。ここで中途半端なものづくりはできません。この試作にも4年をかけました。


<フィロスコッチアで編まれた生地のサンプル>

■初お披露目で高い評価を得るも、デビューは少々苦い思い出に

地道な開発を続けている最中、2013年に2度めとなる転機が。TAKAGIの地元である奈良県が地場のものづくりを活性化させるため、東京で行われる合同展に奈良県の企業として参加することになったのです。


<AROMATIQUE初お披露目となった合同展示会の様子>

「この展示会参加がまったく計画的じゃなくて(笑)。募集に申し込んだら出展できることになって、急遽アイテムを作り始めた感じでした。展示会の2、3日前まで価格も決めてなかったくらいで(笑)」

慌ただしいお披露目になりながらも、新宿伊勢丹のマ・ランジェリーのバイヤーにデビューシーズンを売り出してもらう約束をしてもらうなど、評価は上々。

AROMATIQUEというブランド名も決まり、2014年春夏シーズンにデビューを迎えます。しかし新宿伊勢丹のマ・ランジェリーでポップアップを華々しく開催してもらったデビューは、少々苦いものに。


<新宿伊勢丹のマ・ランジェリーで行われたデビューシーズンのPOP UP>

「思いが強すぎたんですね。AROMATIQUEのすべてを見てほしいと60点ほど商品を作りました。ブランドの規模からすると、点数が多くて方向性がはっきり示せなかった。老舗の有名レースメーカーのリバーレースをはじめ、いい素材を使ったメイドインジャパンのブランドというところをコンセプトとして打ち出していましたが、お客さんにはまだ伝わらなくて。一旦整理してブランディングをし直すことにしました」

AROMATIQUEがこだわっているものづくりを伝えるよりも、ユーザーに受け入れてもらうことが先決と、キャッチーなレース使いをアピールすることに重点を置くため、今ではAROMATIQUEのアイコンになっているハイバックレースキャミソールを中心に打ち出すことに。

インポートランジェリーのようなデザインに惹かれた百貨店のバイヤーやユーザーから、縫製をはじめとする日本の技術力の高さを実感できるクオリティ、その割に価格が手ごろなことに気づき始めます。インフルエンサーやモデルも着てくれるようになり、少しずつブランドとして広がっていきます。


<バックレースキャミソールを打ち出した2017年シーズンのイメージビジュアル>

「認知度が高まった2016年くらいから、本当にアピールしたかった、ものづくりにこだわった日本のブランドということも伝えられるようになりました」

■インナーウェアとアウターウェアの間に位置する独自性のあるブランドを目指したい

着実にファンを獲得しているAROMATIQUE。最後に今後目指す場所を尋ねると「インナーウェアのブランドでありながら、アウターとインナーウェアの間に位置するブランドという独自性をより打ち出していきたい」と、2017年からコンセプトに掲げている思いを明かします。


<AROMATIQUE2023年春夏シーズンのビジュアルより>

「もともとアウターとのコーディネートをイメージしながら、AROMATIQUEの理想をプロダクトアウトしていましたが、今はマーケットリサーチもしっかりしたうえでお客様が求めているものをデザインしています。おかげさまでアパレルブランドさんからコラボのお話もよくいただけるようになり、コラボアイテムも好調です。こういった経験も重ねて、アウターウェアに合うインナーウェアブランドとしてのポジションを確立するのが、今の目標です」

Writing : tica tsushima